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最高裁判所第三小法廷 昭和56年(行ツ)163号 判決 1985年6月18日

静岡県伊東市楼ガ丘一丁目一番二三号

上告人

有限会社 大和不動産

右代表者代表取締役

安西敏雄

東京都杉並区高円寺北一丁目九番二号

上告人

大河原幸作

同所同番号

上告人

大河原貞子

右三名訴訟代理人弁護士

山本政敏

林豊太郎

荻原平

東京都中野区中野四丁目九番地一五号

被上告人

中野税務署長

内惟幾

右指定代理人

亀谷和男

右当事者間の東京高等裁判所昭和五四年(行コ)第九四号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五六年六月一〇日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人山本政敏、同林豊太郎の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法にない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する事実の認定の不当をいうか、又は原審の認定にそわない事実を前提とし若しくは独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、いずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長島敦 裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 裁判官 安岡満彦)

(昭和五六年(行ツ)第一六三号 上告人 有限会社大和不動産 外二名)

上告代理人山本政敏、同林豊太郎の上告理由

第一点 原判決には理由不備、審理不尽の違法がある。

原判決の理由は、第一審判決の理由を全部引用しているので以下第一審判決の理由を原判決の理由として論述する(したがって、第一審判決に「原告会社」とあるのは控訴会社と「原告」とあるのは控訴人と読み替える)。

(一) 原判決は次のように事実認定をしている。

「(三) 控訴会社が本件土地の所有権を取得した後も、同控訴会社の事実上の主宰者である控訴人幸作が地代の収受やその増額交渉等の事務に従事していたところ、控訴人幸作のたび重なる地代値上げや更新料支払いの要求を受けた賃借人の一部は、控訴会社が専ら本件土地についての控訴人幸作の相続税を免れるために設立されたものではないかとの疑惑をいだいたこともあって同控訴人に対する感情を悪化させ、昭和三五年六月三日控訴会社は脱税の目的で設立され、なんら実体を伴わない会社であるとの理由で静岡地方裁判所沼津支部に対して控訴会社の解散命令を求める申立をした。そこで、控訴会社は、右事件につき弁護士木暮勝利に委任し、同弁護士は控訴会社の代理人として抗争したが、手続が進行するにしたがって、控訴会社が実体のない会社であると認定され裁判所から解散命令を受けるのは必至と思われたので、そうなれば代々大河原家の財産であった本件土地が清算手続によって第三者の手に渡ってしまうのではないかと危惧した木暮弁護士は、昭和三五年九月ころ控訴人幸作、控訴会社の当時の代表取締役市島徹太郎と善後策を協議した。その結果、木暮弁護士のすすめに従い、房次郎の相続人である控訴人幸作、同貞子と控訴会社との間で本件土地についての前記売買契約を合意解除してその所有権を控訴人幸作、同貞子に移し、その後に控訴会社が自ら解散してしまうことが最良の解決策であるということになった。その際、控訴人幸作らは右合意解散に伴う税負担を懸念しこのことが話題にのぼったものの、木暮弁護士から税が課せられるはずはないと指摘されたことにより、結局、同弁護士の助言に従うことに落ちついた(控訴会社が解散命令の申立てを受けたことは当事者間に争いがない)。

(四) 控訴会社と控訴人幸作、同貞子は、右協議結果に基づき、昭和三五年一〇月六日に当時時価が四、六〇五万三、五二五円であった本件土地についての前記(二)の売買契約を、右時価の値上り分についてなんらの代償措置も講ずることなく合意解除し、返還すべき代金額を二一四万九、二二三円と取り決め(これは前記売買代金額と一致しないが、双方の誤解によるものである。)、同月一一日に控訴会社の所有権移転登記の抹消登記をしたうえ、控訴人幸作、同貞子において房次郎からの相続を登記原因とする所有権移転登記(持分二分の一ずつ)を経由した。その後、控訴会社は、当初の予定どおり昭和三五年一〇月一四日に自ら解散し、同月二一日にその旨の登記を了したので、前記解散命令申立事件は申立ての取下げによって終了した(本件土地の昭和三五年一〇月当時の時価が四、六〇五万三、五二五円であったこと、右土地について所有権移転登記の抹消登記と相続登記がされたことは当事者間に争いがない)」(一八丁裏から二〇丁表まで)

以上のような事実に基づき次のように判断している。

「以上の事実によれば、同族会社である控訴会社は、昭和二六年に本件土地を二一四万九、一九六円で房次郎から取得したものの、昭和三五年に至り、前記解散命令申立事件の成行きにより右土地が第三者の手に渡ってしまうことを危惧し、解散命令による清算手続を回避するため会社財産たる本件土地を控訴人幸作、同貞子の所有に移し処分したうえで、自発的に解散することにしたが、右土地の時価が著しく騰貴していたことから、右所有権の移転については、敢えて通常の取引方法である右時価による売買を避けて、先の売買契約の合意解除という方法を選んだものと推認されるのであって、これは、経済的、実質的見地からみて経済人の行動としては不合理、不自然なものであるというほかはなく、この行為計算を容認する場合においては、右時価による譲渡が行われた場合に比して控訴会社の法人税の負担を不当に減少させる結果となるものであるから、法三一条の三第一項の規定により否認されることを免れないものといわなければならない。」(二一丁裏から二二丁裏まで)

(二) 原判決の事実認定によれば、要するに本件合意解除は、控訴会社が脱税目的で設立された実体のない会社として、借地人らから静岡地方裁判所沼津支部に対し解散命令の申立をされたところ、同事件の代理人である木暮勝利弁護士が、解散命令は必至でありそうなれば代々大河原家の財産であった本件土地が清算手続によって第三者の手に渡ってしまう惧れがあるので、それに先立って合意解除をなし、その後自発的に控訴会社を解散するに如くはないと判断し、指導したことによるものである。

このような木暮弁護士の判断と指導は、明らかに誤ったものである(解散命令が必至であると判断したことも速断であると考えられる。又仮に解散命令がなされたとして、大河原家の財産であった本件土地が清算手続によって第三者の手に渡ってしまうという判断は明らかに誤ったものである。清算手続になれば残余財産の分配が行なわれるが、それは総社員の同意があれば現物で分割することもできるのであり、そうすると持分の実質的所有者である幸作と貞子がこれを取得することになり第三者の手に渡るなどということは絶対にない)。

そのような間違った指導を受けた上告人らに、どうして「解散命令申立事件のの成行きにより右土地が第三者の手に渡ってしまうことを阻止するため、これを控訴人幸作、同貞子の所有に移そうとしたが、右土地の時価が著しく騰貴していたから敢えて通常の取引方法である右時価による売買を避けて、先の売買契約の合意解除をしたものと推認される」のであろうか。上告人らは、要するに木暮弁護士の間違った判断をそのまま信じ、その指導の通りに動いただけであり、上告人らが自らの判断でそのように信じ行動したわけでないことは明らかである。このような場合、どうして上告人らに解散命令申立事件の成行により本件土地が第三者の手に渡ってしまうことを危惧し、これを幸作、貞子の所有名義に移そうとしたが、土地の時価が著しく騰貴していたことから敢えて通常の取引方法である時価による売買を避けて合意解除を選択したといえるであろうか。上告人らは、木暮弁護士の言うままに動かされただけであって、そこには上告人らの判断は何もないのである。おそらく、原判決は木暮弁護士の判断は即上告人らの判断であると考えているのであろうが、そのような考えは著しく不当であり、誤まったものである。木暮弁護士が、上告人らに明らかに間違ったことを教え、指導したこと、上告人らはその指導に従いそのとおりに行動したことは、裁判所も略認めているようであるが、言うまでもなく上告人らは法律知識の全くない無知な素人である。そのような上告人らが、法律専門家であり信頼する弁護士から、解散命令申立事件を終息させるには合意解除が最良の方法である。合意解除は、あくまで解除であり法律効果を原状に戻すことであるから、税金も一切かからないとの判断を示され、それに従うよう求められれば、言われた通り行動するのは必然的な成り行きである。特に注意を求めたいのは、解散命令申立事件の代理人は木暮弁護士であり、同弁護士が事件を終息させる方法として合意解除を選択したということである。更らにまた、同弁護士は上告人らを単に指導したというに止まらず、実際はどう弁護士がそれ以外に方法がないとして合意解除を上告人らの名においてとり結んだということである。このような事情に鑑みるとき、合意解除には、その動機の最も重要な部分において、契約当事者双方に重大な錯誤が存するものと言わなければならない。殊に、合意解除につき、法人税法及び所得税法の同族会社の行為計算否認の規定が適用され、会社が法人税を、幸作・貞子が所得税を夫々課され、そればかりか、国税徴収法により幸作、貞子が上告人会社の法人税につき第二次納税義務を負担させられるという重大な結果、つまり幸作・貞子は二重の税金を課され(後記注参照)、まさか破滅的事態に立ち至ったのであるが、そういう結果の重大性を考えるとき、上告人らの合意解除の動機には、極めて重大な錯誤が存するものと言わなければならない。

(注) 本件合意解除が所得税法に定める同族会社の行為計算否認の規定により否認された結果、本件不動産の時価相当額を幸作・貞子が上告会社から贈与されたものとみなされ、これを一時所得として所得税が課されたので、上告人幸作・貞子はこれに対する取消を求めて訴訟を提記し、右事件は現在東京高等裁判所第一七民事部に係属中である。この事件番号は、昭和五四年(行コ)第九五号。なお、資料として右事件の第一審判決を添付する。

原判決は、これらの点を全く審理することなく、漫然と原告会社自身が「解散命令申立事件の成行きにより本件土地が第三者の手に渡ってしまうことを危惧し、解散命令による清算手続を回避するため、会社財産たる本件土地を控訴人幸作、貞子の所得に移し処分したうえで自発的に解散することにした」と認め、更らに、原告会社について「右土地の時価が著しく騰貴していたことから所得権の移転については敢えて通常の取引方法である右時価による売買を避けて、先の売買契約の合意解除という方法を選んだものと推認される」として、これは経済的、実質的見地から見て経済人の行動としては不合理、不自然なものであるという外はないと断じているのである(二二丁表)。繰り返すことになるが、本件合意解除は、木暮弁護士が全く誤った判断のもとにこれを上告会社と上告人幸作・貞子に押しつけたものであり、上告人ら自身が自主的に選択したものではなく、無効なものである。原判決はそれをあたかも上告会社自身が自主的に選択したもののごとく速断しているのであって、まさに審理不尽、理由不備の違法があるといわなければならない。

第二点 原判決には法令違背の違法である。

一、同族会社の行為計算否認規定(旧法人税法第三一条の三)によれば「同族会社の行為又は計算でこれを容認した場合において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは」その行為計算を否認することができるとされている。右規定の租税負担を不当に減少させるという点の解釈適用に当っては、目的とする一定の効果との関連において、選択された行為計算が正常か異常か、合理的か不合理かによって決しなければならないものであるが、その場合最も注意を要するのは、安易に租税負担の公平とか課税の実質的公正などといった観念を持ち込んではならないということである。たとえば仮に選択された行為計算が異常、不合理なものであっても、そのような方法を選んだことにつき特別な事情あるいはやむを得ない事情(これらを正当な事情といってもよい)が認められる場合には、行為計算が異常、不合理であるということでこれを否認することができないものといわなければならない。この場合の正当な事情というのは、租税負担の軽減を図るという目的以外に、そうせざるを得ない決定的事情を指すものである。

そこで本件合意解除についてみるに、木暮弁護士の判断と指導によりこれが結ばれたのは、借地人三井由春らが、上告会社が脱税目的で設立された何ら実体を伴わない会社であるとの理由で、静岡地方裁判所沼津支部に解散命令申立をしたことが契機となっているわけである。すなわち、解散命令申立人である借地人らの主張は、(イ)上告会社が本件土地を幸作・貞子の先代である房次郎から取得したのは脱税目的のためである。(ロ)本件土地は、幸作、貞子が実質的に所有し管理しているものであるから、上告会社は本件土地の実質的所有者ではなく、名義上の所有者にすぎず、従って上告会社は何ら実体のない会社であるということなのである。つまり、借地人らの主張は、端的に言えば、上告会社が所有名義人であることをやめて、土地の名義を実質的所有者である幸作、貞子に戻せということなのである。そこで、木暮弁護士としては、税金についての知識が全くなかったので、それについて何らの用意をすることなく、借地人らが土地の実質的所有者である幸作、貞子に土地の名義を戻せといっているからそれに応えてそのようにしてやればよい。そうすれば解散命令の申立も目的が消滅して終了することになる。もともと房次郎から上告会社へ名義を移転したのが、借地人らのいう通り問題のあるものであれば、法律的にはもとの状態に回復させるということにならざるを得ないのであるから、その法律形式は合意解除を取り結ぶという外にないと判断し、そのような判断のもとに上告人らに合意解除を成立させることを求めたわけである。尤も木暮弁護士は、解散命令がなされれば、代々大河原家の財産であった本件土地が、清算手続によって第三者の手に渡ってしまうおそれがあるというようなことも述べて上告人らを説得しているようであるが、それは木暮弁護士が上告人らに合意解除を承認させるためにつけ加えた理由であると思われるのであり、事実としてそうなるというものでは決してない。従ってこの点は木暮弁護士が事実そう考えていたとすれば明らかに誤ったものであるが、何れにしても、右のような木暮弁護士の誤った見通しを、上告人らが真実と誤信したにしても、上告人らの認識は、所有名義を実質的所有者である幸作、貞子に戻すという以外になかったのである。

以上のような事情は、上告人らが合意解除を結ばざるを得なかった特別な事情であり、そうであればもはや合意解除を選択したということの異常性は否定されなければならない。原判決の判断は、右のような正当な事情に何ら考え及ぶことなく、一面の事情とそれにもとづく誤った推認のもとに、上告会社は「解散命令申立事件の成行きにより右土地が第三者の手に渡ってしまうことを危惧し、解散命令による清算手続を回避するため会社財産たる本件土地を控訴人幸作、同貞子の所得に移し処分したうえで自発的に解散することにしたが、右土地の時価が著しく騰貴していたことから所有権の移転については敢えて通常の取引方法である右時価による売買を避けて、先の売買契約の合意解除という方法を選んだもの」と断じ、これが経済的、実質的見地から見て経済人の行動としては不合理、不自然なものというほかはないと判断しているわけである。

原判決の考え方は、要するに、(イ)解散命令による清算手続の結果土地が第三者の手に渡ってしまうことを回避する、(ロ)土地の時価が著しく騰貴していた、という二つの事情から合意解除が不合理、不自然であるというのである。しかし、原判決は、おそらく(イ)の事情については深い顧慮を払わず(ロ)の事情だけからして合意解除が不合理、不自然なものであると判断したものとみざるを得ない。何故なら、(イ)の事情は実状に即て構成するなら次のようにならざるをえない。「解散命令申立事件の審理の結果、上告会社は土地の形式的所有名義人にすぎず、何ら実体のない会社であることが明らかとなり、裁判所から解散命令がなされることを危惧し、その際の清算手続を回避する」。

このように、構成しなおした事情と(ロ)の事情を併せ考えてみるとき、上告会社が土地の実質的所有者である幸作、貞子に土地を戻す方法として売買ということはありえないのであり、方法としては合意解除を選択する以外にないのである。

要するに、本件合意解除が不合理、不自然なものであるとする原判決の判断は、旧法人税三一条の三の解釈と適用を誤ったものであり、それが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから破棄を免れない。

二、原判決は、みなし寄附金損金算入限度額についての項目のなかで、次のとおり説示している。

「……してみると、控訴会社は、控訴人幸作、同貞子に対して時価四、六〇五万三、五二五円の本件土地を右二一九万九、二二三円と六五万五、八八四円との合計額二八〇万五、一〇七円の対価で譲渡し、その差額に相当する四、三二四万八、四一八円を贈与したものとみなされるから、右金額は法人税法上寄附金として取り扱われるべきである」(二三丁裏)

つまり、原判決は、一方では、本件合意解除を否認して、上告会社は幸作、貞子に対し本件土地を当時の時価四、六〇五万三、五二五円で売買譲渡したものと認定し、他方では、上告会社は右代金から一定額を控除した残金四、三二四万八、四一八円を幸作、貞子に対し、贈与したとみなされているのである(そのような考え方から、前記東京高等裁判所に係属中の別件事件の第一審判決においても、幸作、貞子は四、三二四万八、四一八円を上告会社から贈与されたものとみなされると判断している。なお後記(注)参照)

そもそも同族会社の行為計張否認規定の趣旨は、行為計算が異常、不合理の場合これを否認し、正常な行為計算があったとして課税計算しようとするものであり、それ以上のものではない。たとえば、本件におけるように合意解除を否認してこれを売買と認定した場合、それのみで充分であって、更にそれと同時に、贈与があったと認定するのは許されないと言わねばならない。現実に売買がなされた場合、それに贈与という行為が併存あるいは付随するなどということはありえない。現実にありえないことを、観念の操作でそれがあると擬制するのは、まさに観念の遊戯という外はないと言わねばならない。本件の場合被上告人は、上告会社に対し合意解除を否認し、時価による売買があったとして譲渡取得税を課し、同時に幸作、貞子に対しては贈与があったとして所得税を課し、更に幸作、貞子に対し上告会社の法人税につき第二次納税義務告知処分をしているのである。その結果、幸作、貞子は破滅的ともいうべき多額な税金を課されたのであるが、その点はともかくとして、合意解除を否認した場合に、売主とみなされた会社に法人税を課し、同時に買主とみなされた個人に所得税を課するのは、法律の適用を誤った違法があるといわなければならない。つまり合意解除を否認した場合、正当に税金を課することができるのは、会社に対する法人税か個人に対する所得税のいずれかであり、一方の税金を課する場合には他方の税金を課すべきでない。旧法人税第三一条の三第一項と昭和三七年法律第六七号による改正前の旧所得税法第六七条第一項の趣旨もそのように解すべきものである。すなわち、所得税法第六七条第一項にある「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」については、売主である会社に対して法人税を賦課した以上、買主個人に対しては所得はないと認め所得税の負担を不当に減少させる場合にあたらないと解すべきである。又もし買主個人が贈与を受けたとされた場合、法人税三一条の三第一項にある「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」については、買主個人に所得税を賦課した以上、会社に対しては所得がないと認め法人税の負担を不当に減少させる場合にあたらないと解すべきである。

以上の次第であるところ、原判決は、本件合意解除を否認し幸作、貞子に対し所得税を課しているのに、更に上告会社に対し法人税を課したのは法律の解釈 用を誤った違法があり、このことは判決に影響を及ぼすことは明らかであると言わなければならない。

(注) 「贈与したものとみなす」ということについては、法律上の規定はない。したがって、贈与したものとみなすとするのは、あくまで贈与があったと具体的に認定され 合でなければならない。なおこの点については現行法人税法第三七条第六項には「……当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額……」と定めている。

以上

(添付書類省略)

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